アトピー性皮膚炎とは

アトピー性皮膚炎はかゆみのある湿疹を繰り返す病気で、症状の広がり方は小児と成人で異なるという特徴があります。皮膚のバリア機能が低下し、かゆみを感じやすい状態となっているため、掻きむしって悪化させてしまうケースも多く見られます。
また、かゆくて夜十分に眠れない、勉強に集中できないなど、日常生活に影響を来たすこともあるため、適切な治療を早期に開始することが大切です。
アトピー性皮膚炎の原因
体質に関する要因
家族にアレルギー疾患やアトピー性皮膚炎の既往がある場合、遺伝的な傾向が高まります。また、アレルギーと関係の深い免疫物質「IgE抗体」を作りやすい体質の方に多く見られます。
環境に関する要因
花粉、ハウスダスト、食物アレルギー、ほこり、カビなどが症状悪化の原因になることがあります。また、汗や衣類による摩擦、洗剤や化粧品などが刺激になる方もいます。その他、寝不足やストレス、環境の変化が引き金になるなど、同じ生活環境にいても発症のしやすさに違いがあります。
アトピー性皮膚炎の症状
アトピー性皮膚炎の症状は、年齢によって好発部位が異なります。また、それぞれの皮疹の重症度が治療内容の判断に関わります。
年齢による特徴
- 乳児期:頭や顔に始まり、体幹や手足に降りていく
- 幼小児期:首・手足の関節に見られることが多い
- 思春期・成人期:上半身(顔、首、胸、背)の皮疹が強い
アトピー性皮膚炎の検査
TARCアトピー性皮膚炎(AD)の検査における TARC(Thymus and Activation-Regulated Chemokine) は、病勢を客観的に評価するための血液検査項目の一つです。病気の勢いや治療の効果を判定するのに使用します。
TARCとは?
TARC(胸腺および活性化調節性ケモカイン) は、CCL17 という名称のサイトカイン(ケモカイン)の一種で、免疫細胞を誘導する役割があります。
なぜアトピーと関係があるのか?
- アトピー性皮膚炎では Th2細胞(ヘルパーT細胞の一種) が関与するアレルギー性炎症が主体です。
- TARCは Th2細胞を皮膚へ誘導する 働きがあり、その分泌量が増加すると、炎症が悪化します。
- したがって、TARC値は アトピー性皮膚炎の活動性(重症度)と相関する とされています。
TARCの測定目的
- アトピー性皮膚炎の重症度の客観的評価
- 治療の効果判定(治療によりTARC値が低下する傾向)
- 他の皮膚疾患との鑑別(アトピーに特異的ではないが、参考になる)
皮疹の重症度
TARC値(pg/mL) | 重症度分類 | 臨床的目安 |
---|---|---|
~450 | 寛解または軽症 | 症状が落ち着いており、湿疹は最小限 |
451~800 | 軽症 | 軽い湿疹やかゆみが一部にある |
801~1,200 | 中等症 | 湿疹が広がっており、かゆみも明確 |
1,201~2,500 | 中等症〜重症 | 強い炎症が広範囲にあり、日常生活に支障 |
2,501以上 | 重症 | 全身的に広がる炎症、強いかゆみ、治療抵抗性 |
- 軽症:面積に関わらず、軽度の皮疹(軽度の紅斑、乾燥、落屑主体の病変)のみ
- 中等症:強い炎症を伴う皮疹(紅斑、丘疹、びらん、浸潤、苔癬化などを伴う病変)が体表面積の10%未満に見られる
- 重症:強い炎症を伴う皮疹が体表面積の10%以上、30%未満に見られる
- 最重症:強い炎症を伴う皮疹が体表面積の30%以上に見られる
アトピー性皮膚炎の治療
アトピー性皮膚炎の治療の目標は、以下の2つが挙げられます。
- 症状がないか、あっても軽微で、日常生活に支障がなく、薬物療法もあまり必要としない状態に到達し、それを維持する
- 症状があっても軽微で、日常生活に支障を来たすような急な悪化が起こらない状態を維持する
目標達成のために、下記のような治療を適切に組み合わせながら症状の改善をはかります。
スキンケア
アトピー性皮膚炎の治療の基本は、皮膚の保湿です。皮膚の清潔を保ち、保湿剤で乾燥を防ぎバリア機能を強化します。1日2回の保湿を意識し、そのうち1回は入浴直後が望ましいとされています。
薬物療法
ステロイド外用薬、タクロリムス軟膏、JAK阻害薬などを、炎症の範囲や重症度に合わせて選択します。
アトピー性皮膚炎は良くなったり悪くなったりを繰り返すことが特徴で、見た目は良くなっていても皮膚の内側に炎症が残っていることがあります。そのため、症状が落ち着いた後も定期的(週2回ほど)にステロイド軟膏などを塗布する「プロアクティブ療法」を行い、良好な状態を保ちます。
悪化因子の対策
特定のアレルゲンによって症状が起きている場合は、その除去により改善が見込めます。原因特定のために、アレルギー検査を受けてみるのも良いでしょう。
また、髪の毛や衣類の刺激を避ける、掻き壊しを防ぐために爪をこまめに切り、就寝時は手袋を着用するなどの工夫も有用です。
アレルゲンの除去
アトピー性皮膚炎をお持ちの方で、ダニやハウスダストにアレルギーがある方は、通年的にアレルゲンに暴露されている状況が続くため、その症状を抑えるのに舌下免疫療法が有効になることがあります。
2022年9月に米国アレルギー喘息免疫学会が色々な報告をまとめた結果、アレルゲン免疫療法は、アトピー性皮膚炎の症状を改善する可能性があると結論付けました。
参考文献
Allergen immunotherapy for atopic dermatitis: Systematic review and meta-analysis of benefits and harms
子供のアトピー性皮膚炎
お子様のアトピー性皮膚炎の治療には、保護者の方の協力が不可欠です。その分、負担も大きく、改善が見られないと焦りやイライラを感じてしまう方もいらっしゃいます。
ストレスも大きな悪化要因になるため、神経質になりすぎないことが重要です。アトピー性皮膚炎と前向きに付き合っていけるよう、治療で不安なことや、ご家庭や学校で配慮すべきことなど、気になることがあれば何でもお話ください。
なお当院ではキッズ外来も行っておりますので、お気軽にご相談ください。